アナザーストーリー
わけもわからず、俺は走っていた……。
右手には誰かの手があり、左手には血に染まったナイフが握られている。右手から伝わるはずの温かさも、雨に流されなにも感じられない。
二人とも喘ぎ喘ぎ走っている、わけもわからず。今自分たちがどれほどの罪を犯したのかも認識しないまま……。
後ろから追ってきていたはずの大人たちはいつしか姿をけし、自分たちの置かれた状況を理解し始めた。それが、真実なのだと自分に言い聞かせながら。もうあの土地へとは踏み込めない、もう自分の生まれたところには帰れない。
あの時の友人にも訪ねることはない。そう、自分に言い聞かせた。隣にいた手の持ち主は、無言で天を見上げ沈黙している。泣いているのだろうか……
上等な革の靴が泥にまみれ、輝きはなくなっていた。
緊張の糸を断とうと思ったとき、背後から足音が聞こえる。自然と身がこわばる。今この状況では、疲労がたまっているため碌なことはできない。天を向いたまま沈黙していた者も足音が聞こえたのか身構える。
その隣で俺は必死に考えていた。もちろん、この状況の打開策だ。疲労のせいか、頭の回転が遅い。だんだんと目の前が暗くなっていくのを感じた。
ほんの一メートルといったところだろうか。足音がとまり、濡れた肩に温もりがしみこんでくる。それには、召し捕るという意は全く感じられなかった。逆に不気味だったが、いきなり温かいものに触れたせいか、安心してしまいそのまま地面に倒れこんだ。
ふと護は眼を開けた、寝起きのけだるさがまた眠気を誘ったが今は寝ている場合ではない。大切な夕食の時刻が迫っていた。下手をすると満足に食べられないままほかのやつらに奪われる……そう思い、自室を出た。
「ここにきて、一か月……か」
あの冷たい雨の降る日から、もう一か月も過ぎたとは到底信じられないものだった。あのあとここに連れてこられ、言われた事実ついては鬱になれといってるかのように自分を悩ませた。
「まあ……餓死だけは、俺の人生の中の予定ではないからな……。それだけは勘弁と思っていたからな。にしても……」
なんで、この屋敷はこんなに部屋から食堂までが遠いいんだ……と文句を言った。しかも、これでもかと言わんばかりに自分だけ遠い。図書室等の学問に関係する部屋は嫌になるほど自室から近い。
「確かに俺は勉強はさぼってきた。それは反省するとしようか。だとしてもだ!!食堂まで片道10分っておかしいだろうが!」
と、周りに誰もいないのをいいことに大きな一人ごとを言ってみた。しかし、こういう時に限って、誰かいるっていうのが人生だ。
案の定、赤い髪の毛の繊弱な子供が目の前を通る。
「ずいぶんと、大きな一人ごとだな。とうとうイかれたか?まあ、俺の予想通りといったところだな」
女声だが、低めの声が皮肉めいて言う。年齢は全く分からないが、10代前半といったところだろうか。
「……キレア!?お前、いつも神出鬼没だから……。というか、お前よりおれのほうが年上なの。わかる?」
「ああ。よく神出鬼没なんて言葉つかえたな。進歩したか?はっ、年上なのかわからないだろう。年齢はさておき、俺のほうが能力は上だからな。負け惜しみか?醜いな」
自分よりも、15センチも身長の低い子供に鼻で笑われたため頭に来たが、キレアに口喧嘩(一方的な)に勝てないというのはわかっていたので、キレアの背中を黙って見送った。
3分ほど歩くとやっと食堂についた。そこにはもう、大体の面子がそろっていた。
「あれ。そういえば、キレアってそんな食べることに積極的じゃなかったような……というか食べていかなくても生きていけるって聞いたような……」
ふと、疑問がわいた。キレアは、本来ここにはいてはいけない存在だった。詳しいことは自分もよくわからないのだが、違う世界にいて、そこで兵器として別の人間の形をなした兵器を封じられたのだそうだ。その封じられた兵器は敵国の人間から作ったもののため、見せしめとして、キレアの感情を痛みとして感じるらしい。
しかし、その兵器はキレアを憎むことなく封じられ続けている。なぜだかは誰にもわからない。
キレアと目があう。そして、奴はまた挑発的な声色で言った。
「真鳥が、食え食えうっさいからだ。まあ、お前の脳みそでは一か月前のことも、三日たてば忘れるからな。最初から覚えているとは思ってない」
「くそお……。い、一応名前までは覚えてなかったけどなあ!基本情報は覚えてたわ!」
と心の中でつぶやいた。そして、あいてる席に座り、食事にありつく。今日の昼食の時刻は寝過してしまったため昼食にありつけなかった。そのためか、夕食が美味しく感じる。
「あー、これでなんか幸せになれるってなんて俺は幸せ者なんだろうか」
そんな、思いが芽生えたが隣に座っていたキレアのせいで台無しになった。