一通り皆食事を終えたところで、紫苑が口を開いた。
「お仕事の予定ですが、私が調べた限り今年中だけで十人前後といったところでしょうか。しかし、少し基準を緩めると倍以上に増えます。」
「だが、此方人等そんな人数さばききれるほど有能な人材がそろっているかといったらそうでもない」
銀羽はリアトを凝視しながらいった。リアトはその視線を笑顔で返した。
「はあ……そうは言いませんが、今ここに残っているのはたったの五名ですし、得意不得意もあるためとりあえず過去の仕事を含め割り振りました。」
「まあ、護とチロルはわからないから残ったのを適当に当てといたからな」
といい、それぞれの仕事内容が書かれた紙が渡された。来て一カ月しかたっていない護たちは、一度もその仕事とやらをこなしたことがなかった。(そして、残りのメンバーたちの行方、名前等も一切分かっていない)
いまここにいるメンバーとは一応普通に話せるようにはなったが。
渡された紙に目を通す。気持ち悪いほど整った字で、書かれたその資料には見知らぬ人の名前や性別、基本的な個人情報が書かれている。
名前からみて、日本人だろうか……?ということは、日本語を話す……?いろいろと疑問点がわいたため隣にいた要に声をかけた。(先ほどの地獄のような席には悪いがリアトに座ってもらうようにした)
「なあ、お前らはわからないけど俺らは日本語なんてほとんど触れたことないけど?」
「大丈夫。そこら辺は紫苑さんが考えてくれてるよ、当日になったらわかるけどね」
首を少し傾けほほ笑む。要もキレアと同じような存在だったが、キレアのように人との接触を進んで取ろうとしないわけではなく、一番最初に話しかけてきて建物内の案内や説明をしてくれたのは要だ。
キレアもそんな要をどう思っているのかはわからないが、とにかく二人はよく一緒にいる。
「へー。まったくわからないけど、んまあいいか。ありがとう要」
礼をいい、資料に目を戻す。紫苑が普通でないのは、ここに来た時から感じていた。銀羽も同じで、人間としての存在にしては異質なのだ。
「まあ、もう違う次元の話が出てきている時点でもう何を聞かされてもなにも驚かないけどな……たぶん」
多少の嘘が交じっているが、事実ここにいる者たちに通常の人間性や性格を求めては生きていけない。みなどこかしら、特殊なものが多い。その点では護とチロルは平凡なのかもしれない。
全員が資料に目を通した後で紫苑が解散を告げると、個々の部屋に戻って行った。護は、自分の部屋まで十分かかることに絶望した。
「十分ならましだよ。ボクなんて、十五分だよ!?信じられる?銀羽の神経とこの建物の広さあ!」
いきなり頭上で(身長差約二十センチメートル)声がしたため、驚いたがリアトにそういう表情を見せるとすぐにからかわれるため、表情には出さない。
彼曰く、彼がここの組織に来た時偶々紫苑が珍しく留守だったらしく、銀羽に部屋を決めてもらったのだが当時もっと食堂に近い部屋(現在のチロルの部屋)が空いていたのだが、銀羽がリアトのことを気に入らなかったというただそれだけの理由でこの部屋になったらしい。
「まあ、そんなもんだろ。銀羽だし」
「くそー、なんかあの部屋夏場とかじめじめして気持ち悪いんだよ。本当に」
まあ、要の良心に感謝して部屋を交換してもらうけどね。ととびっきりのスマイルを護に向けた。
「そうだ、今回のお仕事どうやらボクとチロルと護はみんな日本らしいよ」
「日本……か」
「なに?悪い思い出でもある?ちなみに、夏場は湿気が多くて本当に嫌だよ、あの国は」
「いや、チロルはいやだろうなって。あいつ、日本人の血も入ってるんだけどそのことずっと、周りから非難されてた。目が黒いのとか。俺は特に気にしなかったけど」
「別にいやな国じゃないんだけどね……」